お問い合わせ

ヘルプラインの視点から内部統制を考える:第1回 小口武氏

各界の第一線でご活躍の方々に内部統制・コンプライアンスのお話を伺いました。

小口武氏

I.P.S.株式会社 財務ディレクター
小口 武氏

プロフィール:おぐち たけし
S・G・ウォーバーグ証券(現UBS証券)、米国ロバートソン・スティーブンス投資銀行におけるM&A・資金調達・ 株式公開・アドバイザリー業務に従事。これまで、国内外のハイテク・IT・教育など他業種にわたる ベンチャー企業の創業期に経営者、CFOとして関わる。
2008年、フランスでミシュラン一つ星を獲得した松嶋啓介シェフが代表を務める株式会社ACCELAIRE(Restaurant-I運営会社)の 創業に参画し、財務ディレクターに就任、2012年に地中海料理店CROSS TOKYO(東京都港区六本木)を運営する I.P.S.株式会社を井上翔輝氏と共同創業し財務ディレクターに就任した。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。



1.中国で感じた Trust(信頼)の存在しない 不正リスク対策

初めて中国でビジネスをした時(2005年頃の吉林省)にとても驚いたのは、 「Trust(信頼)が無い」という前提でビジネスを実践するとどの様な事が起きるのかを体験した時でした。 中国で仕事をするとすぐに直面したのは、中央政府の定めた様々なルールと、地方政府の定めたルールの運用が異なり、 どのルールに従えばよいのか戸惑うことでした。例えば新しく法律が施行されて禁止された行為を意に介さない人々を何度か目にしました。 例を挙げると、先進国と呼ばれる国々では交通信号が赤であれば止まりますが、当時の長春市では信号が赤であっても誰一人として止まる事はありませんでした。 では、どの様にして人々は信号を渡ったのでしょう。彼らは信号を見ずに、車の流れを見て渡っていたのです。交通ルールを守るのではなくて、 車の流れを見て渡るか否かを判断していたのです。道幅100メートルもある道路ですから一気に渡る事は至難です。半年間は路面状態が雪や氷で 覆われることが多いのでそれこそ命がけの横断です。これを子供から老人まで、みんながやっているのです。中国ではあらゆる事にルールが出来ていなかったり、 出来てもすぐに変更されたりとか、あっても現実と矛盾したルールで使えなくて困るといった事が起きます。 その為、彼らの行動基準は先進国のそれとは異なり、政府が決めた事に従っていれば安全であるといった意識や考え方は希薄だと思います。 「Trust(信頼)が無い」のは文化的な背景もありますが、誰かを信用しても変わってしまう、国を信用しても変わってしまう、大企業を信用しても変わってしまう・・・。 こうなってくるともはや自分の身は自分で守るしかありません。彼らは子供の頃からそれを躾けられています。

最近報道された中央政府や、地方政府幹部の不正蓄財事件を例にとりましょう。中国で生活をするようになり感じたことは、中国の歴史に根差した問題です。 王朝時代から権力者にサバイバルのために賄賂を渡し便宜を図ってもらう等、いま始まった問題ではありません。 飲食店などの経営者はお金に関わる会計業務を必ず家族にさせています。現金を扱う業務は特に不正が発生しやすいためです。 和食やラーメン店等の業態で現地進出した日本企業が、日本の経営スタイルをそのまま持ち込み、会計業務を現地従業員に任せきりにすると お金が盗られてしまうことがしばしば起こります。異変に気付いて警察に駆け込んでも、基本的には何もしてくれません。 たとえ裁判を起こしても現地で外資系企業が勝利するのは至難の業です。いきつくところは「あなたは中国のルールを理解してませんでしたね。」 「お金が直接絡む一番重要なところを他人に任すからこうなるんです。」となる。これを肌感覚で理解しました。

2.中国と日本における内部統制に関する考え方の違いは何だとおもいますか?

性悪説と性善説だと思います。具体的には、目の前に置かれている事象を疑ってかかる姿勢が違うと思います。 判断基準をどこに求めるかといった時に日本の大企業で顕著なのですが、聞いた話、ネットで見つけた情報、書いてあるもの等、 第一次情報が抜け落ちているものを参照してしまう事があります。最も重要な時に第一次情報を正確に捉えていないとリスクが高くなります。 不正が起きたときにいかに一次情報がちゃんとトップに伝わるのかはとても重要な事ですし、そのためにリーダーが配置されているところもあります。 リーダーがきちんと機能し人を動かせる組織であれば良いのですが、そうでない場合は一次情報の伝達がうまく行きません。 トップへの情報伝達がスムーズでない組織で不祥事が発覚して記者会見を開く場合、担当者や部門の責任者が出てくるケースがあります。 結局、トップが出てこないと収集がつかず、騒ぎが大きくなって辞任せざるを得なくなります。中国の場合は、大きな組織体の場合、 欧米と似ていて、自己防衛のためにいざという場合にバックアップできる幹部候補が揃えられていることがよくあり、 トップが機能できなくなったらすぐ交代できるようになっています。「失敗したらクビになる」、 「あなたの代わりはすぐ後ろで控えている」のが前提ですので、当然真剣味が違ってきます。このことが私が中国で感じた内部統制です。

3.欧米企業にみる信賞必罰

効率的な「罰」を共有することの重要性を強く感じます。欧米は失敗すればクビになってしまいます。 もしかするとスポーツの世界のマネジメントに近いかもしれませんね。結果が残せなかったら、チームに残れない。 そうお払い箱です。但し彼らのシステムでは、敗者も再チャレンジし敗者復活戦が可能です。 不祥事が起きた時も、誰が責任を取るかが明確になっています。Sox法の罰則のような規定が必要です。 そのルールがあるが故、それこそ真剣に取り組まざるをえない・・・とてもわかりやすいと思います。 まさに、「信賞必罰」です。異質なものを取り入れていくと、内輪で何とかしていくカルチャーが通用しなくなります。 内部統制の面では雑多な人々と多様な価値があるところでは、信賞必罰のシステムがないと難しいと思います。

4.内部通報制度が機能する為に必要と考えるものは何でしょうか。

内部通報制度はとくに財務不正に関しては絶対に必要な仕組みです。効果的に運用する為には、徹底した制度の周知が必要です。 欧米企業では内部監査の人たちは、取り締まらないと仕事をしていないと思われてしまう。クビになってしまいます。 入ってきた通報をいかにして、会社なり、所轄の官庁なりが内部統制に対して有用に活用できる環境を整える事が必要だと思います。 また、社内の人間だけで問題を解決するのは、難しかったり無理があったりするので、外部機関を活用していく必要もあります。 さらに言えば、内部の仕組みが上手く機能しているかをチェックするためにも、重要な問題に対しては、企業統治と連動させ、 監査役や外部機関を活用していく必要もあります。この考え方が経営にとってプラスになることを理解しなくてはなりません。 トラブルがあるのが当たり前として物事を考える。その昔、旅には不確定要素がつきものであったように・・・です。

小口武氏 取材協力:CROSS TOKYO (クロストーキョー)
 URL:cross-tokyo.com

写真左:I.P.S.株式会社 代表取締役 兼 リベロ 井上翔輝氏
写真右:小口武氏

お問合せ・資料のご請求はこちら