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内部統制

【後編】パンデミックがもたらす内部統制への影響~非常事態による内部統制の弱体化とその対応~

2020.05.19

もくじ

【 非常事態による内部統制の弱体化とその対応 】

「【前編】パンデミックがもたらす内部統制への影響」で扱った「にわか仕立て」のテレワーク導入が内部統制に与える影響の議論を発展させて、今回は、非常事態による内部統制の弱体化にいかに対応すべきかについて考えてみたいと思います。

1.内部統制と非常事態 ー内部統制が機能しない?!ー

 内部統制というと、平時における日常業務を対象とした統制として考えがちかと思います。コンティンジェンシープランや事業継続計画(管理)は、内部統制とは全く別枠で考えてこられた方も多いのではないでしょうか。
 しかし、非常事態対応というのは、日常業務の代替と日常業務に戻すための対応ということですから、両者を切り離すべきではありません。内部統制に関する代表的な文献であるCOCOレポートでも、非常事態対応についての言及が見られます。

 内部統制の構築と運用では、非常事態を想定し、現実となった場合に慌てなくても良いような対応を含めておく必要があります。一方で、非常事態モードに入った直後の対応と回復力は、平時の業務運用とそこに組み込まれた内部統制による影響を大きく受けます。

 今般の非常事態で、もし内部統制がうまく機能しないといったことが起こったとすれば、それはコンティンジェンシープランや事業継続計画(管理)との連携が不十分なままに内部統制を構築してしまったことの証左かもしれません。

2.在宅勤務による内部統制の弱体化の可能性 ー不正・誤びゅうリスクの高まりー

 在宅勤務を引き金とした「にわか仕立て」のテレワーク導入によって、職務分離の体制が崩れたり、物理的な照合手続ができない、あるいは適時・適切な承認ができないといった事態が起こっていることも多いのではないでしょうか。

 このような統制手続の省略や簡略化という状況にあっては、社内処理を滞りなく進めるため「ともかく承認印を」といった実体を伴わない承認が行われていることが心配されます。取引先から承認手続を急かされることもあるでしょう。そもそも社会全体が緊急事態、非常事態だということで、面倒なことに目をつむるといったことも考えられます。

 不正だけでなく誤びゅう(意図しない誤り)のリスクも高まっているとみて間違いないでしょう。上場会社等にあっては、新型コロナの影響がひと段落したときに、有価証券報告書や内部統制報告書の訂正が必要となるといった事態も心配されます。
 
 非常事態だからという理由で、内部統制の大きな機能低下は避けるべきです。平時になっても、元に戻すことができないといったことになりかねないからです。

3.内部統制弱体化の怖さー崩れるのは一瞬ー

 事業継続や雇用維持すら危ぶまれる状況にあって、内部統制どころではないといった声も聞こえてきそうです。角を矯めて牛を殺すようなことがあってはなりません。

 しかし、内部統制の重要性に対する経営者や従業員の意識が後退してしまいますと、不正リスクを高めることにとどまらず、長期的には、会社組織そのものを蝕んでしまう恐れがあります。

 せっかく苦労して構築してきた内部統制の仕組みだけでなく、健全な組織風土が一瞬にして崩れてしまいます。コンプライアンス意識の確立などの統制環境の構築には多大な労力と時間を要しますが、崩れるのは一瞬です。

4.統制手続の目的を考える ー何のための承認手続かー

 承認手続が省略されたり、例外処理を認めざるをえない場合に重要なことは、関係者全員が、なぜ承認が必要かを再認識することです。通常の業務の中では、忙しさも手伝って、無意識のうちに、承認印という「承認の結果」だけを重視しがちです。上司によるモニタリングや内部監査でも、「ハンコ」があるかどうかだけを見てしまうということです。

 法令や社内規則への違反を予防・発見するための承認か、内容の正確性や適切性を確かめるための承認か、経済合理性や採算性をチェックするための承認か、あるいはすでに行われた承認が適切であったかどうかを確認するための承認か、といった承認の目的を常に意識することが大切なのです。

 したがって、非常事態において、やむをえず承認の省略や例外が求められる場合であっても、上で指摘したような承認の目的から、どこまで認めるべきかが判断されるべきです。

5.電子承認導入の留意点―電子承認といえども、承認の目的が大事ー

 テレワークの導入によって、電子承認が注目されています。電子承認は、承認に際して、場所と時間を選ばないという利便性があります。大掛かりな電子承認のシステムがなくても、PCにインストールして使う押印ソフトといった手軽なツールもあります。承認手続の効率化にとっては有効なものです。

 とはいえ、電子承認といえども、それは単なるツールにしか過ぎないことを忘れるべきではありません。上で述べましたように、「何を」承認しているか、承認の「目的」は何かという観点で、電子承認をどのように運用すべきかを考えることが大切なのです。

6.内部統制弱体化に対する工夫 ー内部統制の発見機能の強化ー

 テレワーク環境では、職務分離が機能しないといったことが起こりえます。職務分離が難しい場合の代替策としてローテーションがあります。現在、強制的な出社禁止や交代制による出社が行われています。それが、ローテーション機能の代替となることもあるのではないでしょうか。もちろん局面は限られますが、要は、考え方次第、工夫次第だということです。

 また、不正や誤びゅう対応のための内部統制というと、平時であれ非常時であれ、予防機能に傾注しがちです。確かに不正や誤びゅうが起こらないようにすることを優先すべきは当然のことです。しかし、非常事態下におけるテレワーク環境では、アクセス統制といった予防機能に重点を置いた統制手続を弱める傾向が心配されます。

 したがって、非常事態においては、とくに内部統制の発見機能にもっと目を向け、いかに早く不正や誤びゅうを発見し、速やかな対応が可能となるようにすることが重要となってくるように思います。

7.攻めの内部統制へのギアチェンジ ーまとめー

 今回の非常事態で、テレワーク用のツールをはじめ、さまざまなテクノロジー・ツールの活用が注目されるようになりました。中長期的には、さまざまなツールのメリット、デメリットを整理した上での活用が模索されることでしょう。その際に大切なことは、内部統制の本来の目的は、「業務の有効性と効率性を高める」ことにあるということの認識です。テレワークも、内部統制の本来的な機能である業務の有効性と効率性を高めるために利用すべきです。

 今後、非常事態がもたらした業務の大幅な後退を前向きのエネルギーに変えるためにも、内部統制がもつ攻めの機能にこそ着目すべきでしょう。内部統制は、それ自体で存在意義をもつものではなく、業務プロセスの効果的な運用ために存在するという原点に立ち返るチャンスとすべきではないでしょうか。

日本大学商学部教授 商学博士
堀江 正之
ほりえ まさゆき

現在、日本監査研究学会会長、システム監査学会常任理事、日本内部統制学会監事、情報処理技術者試験委員、会計検査院・情報開示・個人情報審査会委員、金融庁・行政事業レビュー等に関する外部有識者、海上保安庁入札監視委員などを兼任。

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