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パワハラ防止法と内部通報制度―その効果的な窓口運用方法とは―

2020.06.01

もくじ

【序章:パワハラ防止法と内部通報制度】

今般施行されるパワハラ防止法(2020年6月から、中小企業は2022年4月から)では、企業(事業主)に対してパワハラ防止措置義務が課せられることになりました。パワハラ防止措置義務として挙げられている以下4項目については、企業が必ず講じなければならない措置となります。
  • 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  • そのほか併せて講ずべき措置

  • 今回は、その中でも「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」に規定される相談窓口の設置および運用について、国内外でおよそ1700社様の内部通報を取り扱う弊社、株式会社ディー・クエスト(以下、DQヘルプライン)の事例から内部通報制度と絡めて考えていきます。

1.ハラスメント事案と内部通報の関係

内部通報制度におけるハラスメント事案の現状
現在、大企業の大半が社内外において窓口を設置し運用している内部通報制度では、公益通報者保護法の施行やコーポレートガバナンス・コードの制定に合わせて、その設置数を伸ばしてきました。

多くの企業で設置している内部通報制度では、通報者や通報対象の範囲には各社の実情に合わせて若干の差異が見受けられますが、そのような中でもパワハラをはじめとするハラスメント事案を敢えて含めずに、運用している企業はかなり稀な例になります。

その理由としては、ハラスメント事案を「不正」の範疇として捉えているからであり、それを積極的に選別する(もしくは省く)ことは、他の受け皿(ハラスメント専用相談窓口など)を設定していない限りは、正当性を見出すことができないためだと推測できます。

そのような実態を受け、内部通報窓口への通報や相談は、消費者庁の「平成 28 年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査 報告書」で公開されている以下の図表53のとおり、その55%がハラスメント事案となる結果につながります。
出展:消費者庁の「平成 28 年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査 報告書」(P47 図表53)(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/research/)

また、DQヘルプライン独自の調査(2019年度調べ)でも、約60%近くがハラスメント事案として集計されています(集計項目の重複項目を含みます。余談ですが、ハラスメント事案をトリガーに他の不正事案に結びつくケースも少なくありません)。

つまり、おおよそ内部通報制度の実情というのは、ハラスメント事案で半数超を占めていると言えます。
どんなことが内部通報窓口の担当者を悩ませるのか?

さて、そのような内部通報窓口の実情から多くの内部通報窓口の担当者を悩ませるのは、いったいどのようなことなのでしょうか。
コンサルタントとして、これまで数百社の窓口ご担当者とお話した経験から、その悩みの多くは、ハラスメント事案の通報件数の多さであり、組織の不正事案との切り分けの難しさが挙げられます。

その理由をご説明する前提として、ハラスメント事案と不正事案の性質の違いについて考えてみる必要があります。
その端的な違いは、「直接的な被害を受けているのは何か」という点です。

つまり、ハラスメント事案の被害者は「人」であり、不正事案については「企業(もしくは部署等)」が被っているということになります。

このような性質の違いから、多くの企業ではハラスメント事案と不正事案の通報内容に対応する所管部署をHR系の部門とコンプライアンス系の部門に分けて運用しています。
そのため、内部通報窓口担当者の多くがコンプライアンス部門に所属されている現状では、パワハラやセクハラなどのハラスメント事案の通報が入るたびにHR部門への振り分け作業に労力を費やすことになります。

さらに、内部通報窓口の性格上、匿名通報を受付可能としていることもハラスメント事案とは馴染みづらい点として挙げられます。

不正事案では通報者保護の観点から「匿名」は、非常に重要な機能となりますが、ハラスメント事案ではその内容が匿名の場合、当然のことながら当事者を特定することができず、その後の調査にも支障を来たします。

ハラスメント事案では「人」が分からなければ、手も足も出すことができず、不完全な情報の取り扱いに悩むことにつながるのです。

2.ハラスメント事案に対応するための内部通報窓口の設置

効果的な内部通報窓口の設置例
ハラスメント事案に対応するための窓口の設置について、効果的な方法はあるのでしょうか。

DQヘルプラインがお勧めする方法の一つは、「窓口の分割」です。

それは窓口を内部通報窓口ハラスメント相談窓口に分けて運用し、各受付担当者も分けて設定する方法となります。
従来の内部通報窓口において十把一絡げで受け付けてきた情報の切り分けは、通報・相談者の判断にお任せすることで、初期の段階で情報の区分・整理を行うことが可能になります。

この方法は、本項冒頭で述べたパワハラ防止法が企業に求める講ずるべき措置の「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」に合致する上に、「職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」にも適う対応になります。

つまり、「窓口の分割」とは、相談内容を所管部署が直接一次対応をすることができるため、適切かつ迅速に対応するための方策として有効だということです。
内部通報窓口とハラスメント相談窓口を分けることのメリットとデメリット

もちろん窓口の分割についてはメリットとデメリットが存在します。

メリットとして挙げられるのは、前述を含めて以下が想定されます。

  1. ①担当者の負担軽減
  2. ②通報・相談者の保護
  3. ③双方の窓口に効果的な聴取項目の設定

多くの企業では、ハラスメント被害者の方をケアする体制が敷かれています。そのため、上記②については、所管部署に一次相談することができ、その体制に直結させることができるため、適切・迅速な対応を取ることが可能になるはずです。
③のハラスメント相談窓口に効果的な聴取項目については、後述いたします。

一方、デメリットとしては以下が挙げられます。
①情報の切り分けを通報・相談者に委ねることによる誤った窓口への相談・通報

また、上記と似通う部分もありますが、以下も挙げられます。
②ハラスメントの解釈に応じて、すべてが内部通報窓口への不正事案になる可能性

2点目については悩ましい部分ではありますが、パワハラ防止法の施行に伴って多くの方が、ハラスメント事案を不正事案の範疇に入れて解釈する可能性が高くなる懸念があります。

そうなるとあらかじめ受付窓口を分割した意味がなくなってしまうことになりますので、各窓口の機能について社内で十分周知・教育・説明することが求められるでしょう。

効果的な聴取項目と調査の関係

窓口分割のメリットとして挙げさせていただいた「双方の窓口に効果的な聴取項目の設定」について、詳しく見ていきます。

すでにご説明のとおり、ハラスメント事案と不正事案には性質の違いがありますので、通報・相談後の調査に必要な情報も自ずから異なってきます。

そのため、ハラスメント相談窓口を有効に運用するためには、不正事案とは区別した聴取項目を設定することが有効です。
聴取項目とは電話受付なら受付担当者のスクリプト、Webフォームなら項目の設定などです。封書受付やemail受付の場合は、社内教育・周知の際の案内資料にあらかじめ掲載することができます。

聴取項目の内容は、パワハラ防止法で挙げられている以下の「職場におけるパワハラの3要素」の①、②に対応したものが有効です。

① 優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
③ 労働者の就業環境が害される
引用元:厚生労働省ホームページ(https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/00330.html)

ご存知のとおり職場におけるパワーハラスメントとは、上記3つの要素をすべて満たすものが対象となるため、早い段階でこの要素に合致する事案なのか把握する必要があります。

「関係者」、「行為の詳細」、「状況と経緯」を聴取することで①、②の大枠を把握することができ、その後「③労働者の就業環境が害される」の判断基準を満たすかどうかを検討するという流れになります。

なお、「③労働者の就業環境が害される」の具体的な内容として、以下の極めて判断が難しい規定がありますので、早い段階でハラスメント判定することは厳に避けなければいけません。

判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、 同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるか どうかを基準とすることが適当
引用元:厚生労働省「パワハラ対策等リーフレット」(https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000602881.pdf)

特に電話応対の際などに、相談者を慮るあまり、つい口をついて「それはハラスメントになりますね」などと出てしまいがちですので、注意が必要です。

ハラスメント相談窓口での匿名相談の取り扱いについて

ハラスメント相談窓口の聴取項目の設定では、匿名と顕名(実名)のどちらでも相談が可能にするか、顕名のみの取り扱いにするかという問題があります。

前述のとおり、ハラスメント事案については、どこに所属する誰の問題かわからなければ、その後の調査に支障が出てしまうため、できれば顕名であることに越したことはありません。

パワハラ防止法では、公益通報者保護法と違い、相談窓口に匿名性を求めてなく、いずれの運用も可能であるため、顕名のみの運用の方が適当なように考えてしまいがちですが、やはりそこは慎重に検討する必要があります。

DQヘルプラインの実績では国内通報の半数を超える件数が匿名通報で始まることから、「匿名」には相談のしやすさを担保する一定の役割があることが推測されるためです。

また、中には自身の救済ではなく、行為の事実のみを相談窓口、すなわち企業側に把握してほしいと希望する相談者もいますので、そのような声を汲み取り組織全体への是正に取り組むためにも、匿名でも相談可能にしておくという選択肢も十分に考えられます。

その場合、相談者とのやり取りを通じて信頼関係を築き、何度かのやり取りを経た後に、匿名だった事案が顕名に変わるといった事例も多くあります。

3.パワハラ防止法と共存する内部通報制度

パワハラ防止法における内部通報制度の在り方

ハラスメント防止法施行後の内部通報制度の在り方として、今回はハラスメント相談窓口と不正事案の内部通報窓口の切り分け「窓口の分割」を一つの方法としてご説明してきました。

多くの内部通報制度運用のご担当者様とお話させていただく機会があったため、その一つの解決案としてご提案してきたものであり、受付体制の負担軽減や情報整理のために一定の効果が得られるものとなります。

これはいたずらに窓口のご担当者を疲弊させては、結果的に窓口利用者の方のためにもならず、さらには制度の本質的な目的にも合致しなくなる可能性があるためです。

まずは内部通報を受け付ける側の負担を軽減させ、安定した窓口の運用を目指すことが、パワハラ防止法と内部通報制度の両方の本質的な要請に適うものして重要であると考えます。

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株式会社ディー・クエスト
ヘルプライン事業本部 シニアコンサルタント
福山 隆秋
ふくやま たかあき

大学機関、財団法人等でビジネスパーソン向けのセミナーの企画・講師を務め、医療機関向けのコンサルティング業務に従事。
現職では、年間200社近くの企業に対して内部通報制度運用のサポート、改善・新規導入に係るコンサルティングを行っている。国内・海外の内部通報窓口設置・運用に関するセミナーも担当。

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