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GovernanceQ 第11回【久保利英明×八田進二#2】社外取締役は“異論”を言う役割
2023.12.20

八田進二・青山学院大学名誉教授が各界の注目人物と「ガバナンス」をテーマに縦横無尽に語り合う大型対談企画。シリーズ第11回目のゲストは、かの久保利英明弁護士。#2では、これまで務めてきた社外取締役の経験から、その神髄を語る。“お飾り”ではない緊張感に満ちた社外取締役のあるべき姿とは――。
野村HD社外取締役時代に断ち切った「香典」の因習
八田進二 (#1から続く)先生は2001年に野村ホールディングス(HD)の社外取締役に就任されて以来、多くの企業での社外取締役をお務めになっています。社外取締役の基本的な任務や使命をどう考えておられますか。
久保利英明 基本的には、常に経営陣に“異論”を唱えることでしょう。「その経営判断でいいのか?」「環境認識を間違えていないか?」と、自分がおかしいと思うことを取締役会などで臆せず言い続けるというのが、社外取締役の役割だと思っています。
八田 内部の人間では言えないようなことを発言された時、社長や社内の役員たちはどういう反応を示すものですか。
久保利 野村HDでの話ですが、当時、顧客先など、大手企業の財務担当役員は親族が亡くなった時に、証券会社から多額の香典をもらっているのではという噂話がありました。あの財務担当は父親の葬式で香典袋が立つくらいの金額を包まれたようだ……なんて話もあったほどです。ただ、いろいろ確認しても客観的な証拠は見つからない。しかし、そういう話は業界では通説として流布していました。
当時は野村証券を含む証券業界が不祥事に見舞われていた時期で、そんな中、証券会社が財務担当役員の親族の葬儀で香典を渡すこと自体、曰く言い難い関係があるのかと世間から思われる。そこで私は、野村HDの取締役会で「香典をやめましょう」と発言したのです。でも、社内の役員は「1万円だったらいいではないか。香典を持たずにお悔やみには行けない」と言う。私は「葬式に行くな」と言っているわけじゃない。だから、「香典の代わりに、斎場の掃除や葬儀の受け付けをやらせてくださいと言えばいい。断る人はいないはずだから、正面切って香典なしでやれ」と。そして、「未来永劫とまでは言わないけど、少なくとも世の中をお騒がせしているこの時期に、『香典を持たないと、人の葬式に行けない』なんていうことがあれば、社外でこの顛末を話す」と突っ撥ねました。結局、半年くらいは“香典なし”でやりましたね。
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