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コンプライアンス調査

反社会的勢力排除の意義とこれからの反社チェック-共生者・半グレの排除

2020.07.14

    もくじ

    1.反社会的勢力の排除が求められる意義

    1)反社会的勢力排除はコンプライアンス・CSRそのものである

     「反社会的勢力との関係を持ってはいけない」ことは、現代の企業にとって当然の常識です。では、なぜ「反社会的勢力との関係を持ってはならない」のでしょうか。「常識」として機械的に対応することではなく、そもそもの意義を再確認することが、排除体制の強化につながります。

     この点に端的に回答するならば、反社会的勢力の経済活動を制限し、弱体化させることは、企業のコンプライアンス・社会的責任(CSR)そのものであるからだといえます ¹。

     20~30年以上前では、企業が暴力団や総会屋から恐喝などの被害を受ける事件が多発していました。例えば、経営陣が恐喝を受けて300億近い金銭供与をさせられた蛇の目ミシン工業事件(1990年に表面化)などはその代表例です。当時では、このような不当要求から企業を防衛することが重要な意義を持っていました。

     ところが、実際の社会には、企業と反社会的勢力がお互いを利用し合って経済活動を拡大している事案、妨害を恐れた企業が安易に金品を提供している事案、などが多く存在していました。しかし、このように企業が反社会的勢力に金銭を流してしまえば、その資金は、別の不当要求行為や犯罪行為の資金源として再利用されます。金銭以外の便益も反社会勢力を助勢することにつながります。また、企業から得る豊富な資金は、反社会的勢力に不逞の人材を誘引することにつながります。

     つまり、企業が反社会的勢力との関係を持つことは、企業が、反社会的勢力の活動を援助・助長することであり、反社会的勢力による犯罪の再生産に協力することと同義なのです。かかる事態を許すことが、すなわち企業に求められる社会的責任(CSR)に反するということは議論する余地もありません。

    2)企業暴排指針の登場と反社チェック

     2007年、政府は、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(以下「企業暴排指針」といいます)を発表し²、それまでの「不当要求の拒絶」を中心とした対策から一歩進んだ「一切の関係遮断」の実現へと大きく舵を切りました。企業には、仮に経済的合理性がある取引であっても、反社会的勢力との間に一切の取引を行わないことを求め、これを実現させる内部統制システムの整備を求めたのです。

     その後、まずは、金融庁からの厳しい指導により、金融取引からの反社会的勢力の締め出しが進められました。すると、次第に、反社会的勢力との関係が明るみに出た企業は、まともな銀行取引ができない、投資対象として不適格とみられる、他の企業との通常取引にも支障が生じる、といった不利益が当然に生ずる状況となりました。

     また、各都道府県における暴力団排除条例の施行(2011年)や暴力団との関係が明るみにでた有名タレントが芸能界から引退した事件などを経て、一般社会にも「反社会的勢力の社会からの排除」への意識が着実に浸透していきました。今では、反社会的勢力排除への取り組みの成否が、企業のレピュテーションを支える重要な要素となっています。

     このような経緯を経て、反社会的勢力の排除は「コンプライアンスそのもの」であり、「企業の社会的責任(CSR)そのもの」となっています。達成できなければ、一般社会から一斉にそっぽを向かれることとなります。

     そこで、企業は、緊急時における不当要求対策のみならず、平時から反社会的勢力との関係を遮断させる仕組みを整備しておくようになりました。取引先や株主などの関係先が反社会的勢力に該当するかどうかのチェック(いわゆる「反社チェック」)を継続的に実施する体制を構築しておくことには、前述のとおり「企業のコンプライアンス・CSRそのもの」という意義があり、経営者の内部統制構築義務の重要な一部になっているのです。

    2.昨今の反社会的勢力の活動状況

    1)警察庁の統計

     企業暴排指針が発表されてから13年が経った現在では、あらゆる企業活動からの反社会的勢力排除の流れは社会に定着しています。その効果もあり、警察庁が発表している暴力団構成員等(暴力団員及び準構成員等)の人数は、2007年(平成19年)には約8万4700人だったのが、2019年においては約2万8200人まで激減しているほか(図表1)、総会屋・企業ゴロ等も2010年には約1330人であったのが2019年末時点には約1000人まで減少しています(参照:2020年4月警察庁組織犯罪対策部組織犯罪対策企画課「令和元年における組織犯罪の情勢」³)。

    引用元:警察庁組織犯罪対策部組織犯罪対策企画課「令和元年における組織犯罪の情勢」7頁より

    2)共生者・準暴力団(半グレ)の台頭

     では、実社会において、反社会的勢力は真に減少しているのでしょうか。
     この点、統計のとおり、暴力団員等の人数が減少していることは間違いないでしょう。しかし、一方では、暴力団等の属性や活動の潜行化・匿名化が進行していることがよく知られています。今どきの反社会的勢力は、暴力団を名乗らず、表向きはキレイな第三者を間に立てるなど、ステルス化して企業に近寄ってきます。これらのステルス化した暴力団等による活動状況は、統計では拾いきれていません。

     その中でも、昨今は、「共生者」や「準暴力団」と呼ばれる存在に注目が集まっています。
     「共生者」とは、暴力団に資金を提供し、又は暴力団から提供を受けた資金を運用した利益を暴力団に還元するなどして、暴力団の資金獲得活動に協力し、又は関与する個人やグループをいいます。暴力団関連企業などがその典型例です。

     「準暴力団」とは、暴力団と同程度の明確な組織性は有しないものの、これに属する者が集団体に又は常習的に暴力的不法行為等を行っている、暴力団に準ずる集団をいいます。いわゆる関東連合OBグループなどの「半グレ」と呼ばれる集団も含まれています(本稿では、読者の読みやすさの観点から、準暴力団を「半グレ」と呼ぶことにします)。半グレが共生者そのものである場合も多いでしょう。

     特に半グレ勢力の台頭は近年盛んに報じられているところです。半グレは、暴力団対策法の適用対象外であること、組織性が緩やかで警察も全ての人員や活動の詳細を把握することが困難なこと、それでいて暴力団に比肩する貪欲な犯罪意欲と凶暴性や、SNS、IT技術、仮想通貨などを駆使した狡猾な犯罪にも対応する能力を持っており、暴力団にとっては頼りになる相棒です。以前は、互いに反目していた時期もあったといわれますが、最近では、暴力団が半グレを対外活動の窓口として利用し、一方、半グレは暴力団の威力を利用するという、持ちつ持たれつの依存関係も見られるところです。

     現在、共生者や半グレについて、警察等の関連機関への照会を実施したとしても、その属性について確定的な回答が得られる状況ではなく、また、過去の新聞報道等の検索を行ったとしても、その属性を明らかにする証拠はさほど見つかりません。しかし、反社会的勢力の排除がコンプライアンス・CSRそのものという意味を持っている以上、共生者や半グレもまた明確な排除対象です。各企業には、共生者や半グレについても一切の関係排除が可能な体制づくりが求められているのです。

    3)反社会的勢力の活動は現在も活発-新型コロナウィルス感染症による影響

     暴力団等の数が減少しているとはいっても、必ずしもその活動が沈静化しているわけではありません。暴力団が直接的に企業に接点を求める事案は減少傾向にありますが、今でも、企業が恐喝や詐欺の被害を受けたり、予期せず関係を持ったりして、大きくレピュテーションを毀損する事件が起こっています。最近では、大手企業が相次いで被害にあった地面師の事案、有名タレントが、特殊詐欺集団が開催したパーティーに参加していた事案などが印象的でした。

     また、今後は新型コロナウィルス感染症の拡大によって不安定な経済状況が継続すると想定されます。かかる情勢下においては、反社会的勢力も同様に経済的に苦しい局面に追い込まれますが、資金的に余裕のない反社会的勢力であれば、破れかぶれに金銭の喝取・詐取や一般取引への介入を狙うなどして活動を活発化させる危険があります。逆に、資金に余裕のある反社会的勢力であれば、一般企業の弱みに付け込んでヤミ金融の活動を強化したり、乗っ取りの攻勢をしかけたりする危険性があります。取引先企業が、窮状につけこまれて反社会的勢力との関係を持つようになり、やがては経営権を奪われているような事態もあり得るのです。

    3.昨今の状況を踏まえた反社チェックのあり方

     企業は、反社会的勢力の潜在化・匿名化が進んだ現状を踏まえて反社チェックを実施しなければなりません。一般的な反社チェックの手順では、相手方の社名・代表者名に関する新聞記事検索やインターネットでの検索を実施するなどの手法が多く取られますが、ステルス性の高い相手に、従来型の簡易な反社チェックは通用しません。

     社名・代表者名から新聞記事検索をして分かるような表面的な事情のみならず、例えば、登記簿を取得して過去の社名・取締役や住所地を調査するほか、事業所の現地調査、現在の住所地に現在又は過去に存在している法人の調査、従業員や取引先の調査、風評の調査、官報その他の公表情報の調査、そして、場合によっては業界内の関係先の評判をインタビューする等によって多角的な調査と情報の分析が必要となります。

     つまり、反社チェックの実施には、これまで以上の手間をかける必要が出てきます。もちろん、全ての取引先に対して上記のような綿密なチェックを実施することは非現実的ですが、これはと思う重要な取引の場合や、相手方の素性に不安がある場合、相手方の振る舞いに不審な点がある場合などには、慎重な姿勢が必要になります。そして、十分な情報を取得するには、社内のリソースだけでは不足していたり、非効率、不正確であったりするため、事案によっては専門の業者に依頼することを検討するべきでしょう。

     また、取引を開始した後の定期的なチェックも欠かせません。特に、現在の社会情勢からすれば、安心して取引を開始したはずの取引先が、その窮状に付け込まれて反社会的勢力の支配下に置かれるなどの、まさかの事態が生じてもおかしくありません。取引先については、取引開始からの期間(前回の反社チェックから期間が経過している)、取引額の変化(取引額が増加している)、相手方の財務状況の悪化(窮状に陥れば危険が増す)等のリスク要因をベースにした一定の基準を設け、定期的なチェックを実施する仕組みが必要です。

    4.反社会的勢力の疑いがある取引先等が判明した場合

     調査の結果、反社会的勢力の疑いが判明した場合は、速やかに取引先から排除しなければなりせん。
     この点、取引開始前であれば排除は容易です。疑いの濃淡と取引の性質等に従って、取引を中止するか、または、開始したうえで継続的な監視下に置くかの選択になります。

     問題は、既に取引を行っている相手方に疑いが浮上した場合です。その場合における排除を実行するための武器は、いわゆる反社会的勢力排除条項(反社排除条項)です。契約書、発注書・受注書、誓約書など各種の方法により、反社排除条項の導入を進めておくことが、各企業に求められる基本行動となります。
     
     ここで、相手方が暴力団であれば、警察からの協力を得ることによって速やかな排除が実現できる可能性があります。しかし、共生者や半グレなどについては、その属性に確たる証拠を得ることが難しいため、契約解除に法的なリスクを抱える場合があります。例えば、特殊詐欺グループは排除対象ではあることは明確ですが、その全体の検挙数に対して現役の暴力団員として属性の確認ができる者は約1割と想定されるため(令和元年の警察庁組織犯罪の情勢による統計から筆者が推測)、関与者のうち9割程度の者については、確たる属性の証拠を示せないのが現実です。このことからしても、共生者や半グレについて、その属性を理由とした排除に困難が伴うことが分かるでしょう。

     そこで、今後、各企業は、相手方の「属性」(反社会的勢力かそうでないか)のみならず、相手方の行為(振る舞い)に応じて契約解除を可能とする反社排除条項を設定することが求められます。例えば、関係者が特定の犯罪行為に関与した事実が判明した場合には契約を解除できる条項、法的な権利行使を超える不当な要求を行った場合には契約を解除できる条項等が考えられます。また、疑わしい事情がある場合には、関連証拠を提出して身の潔白を証明することを相手方に義務付けることによって立証責任を転換することも有力な対策となり得ます。

     各企業は、自社の事業、商品、サービス等の内容に合わせて、相手方の属性が確定できなくとも、過去、現在、将来において反社会的勢力らしい振る舞いをしたことを根拠とした排除を容易にできる、オーダーメイドの反社排除条項を検討するべきです。

    5.まとめ―対策と反社チェック体制の見直し

    • 反社会的勢力の排除は企業のコンプライアンス・CSRそのものです
    • そのため、反社会的勢力としての属性が確定しきれない、共生者や半グレも、当然に排除の対象です
    • 共生者や半グレはステルス性が高いため、取引先の反社チェックはこれまで以上に重要になります
    • 表面的なチェックのみならず、探索範囲・深度を増した情報収集を行い、多角的な検討によって判断を下す必要性が増しています
    • 共生者・半グレといった取引先を確実に排除するため、その振る舞いにフォーカスした排除条項を検討することが望まれます

     以上のような対策により、新しい反社会的勢力排除体制を整えることが、適切な企業活動の防衛と内部統制構築義務の充足に結び付きます。それが、ひいては、企業のCSRの充実、レピュテーションの維持・向上に貢献するとの視点から、反社排除体制の充実、特に反社チェック体制の見直しを検討することが望まれるでしょう。

    注釈および参考

    1. 企業暴排指針は、「特に、近時、コンプライアンス重視の流れにおいて、反社会的勢力に対して屈することなく法律に則して対応することや、反社会的勢力に対して資金提供を行わないことは、コンプライアンスそのものであるとも言える。」と述べています。
    2. 平成19年6月19日「犯罪対策閣僚会議幹事会申し合わせ」として発表
    3. 2020年4月警察庁組織犯罪対策部組織犯罪対策企画課「令和元年における組織犯罪の情勢」図表1 暴力団構成員等の推移(https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kikakubunseki/sotaikikaku06/R1.sotaijousei.pdf)
    プロアクト法律事務所
    パートナー弁護士
    渡邉 宙志
    わたなべ たかし
    弁護士、公認不正検査士(CFE)、公認内部監査人(CIA)

    2004年、弁護士登録。
    2008年4月から2014年12月まで吉本興業株式会社執行役員法務本部長、コンプラアンス推進委員会委員長など。
    2015年に現事務所に参画したのち、2018年から東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会副委員長など。
    企業に対する反社会的勢力排除の実務対応のほか、不正調査、危機管理、リスクマネジメントに関する業務を中心に活動。
    プロフィール詳細➚

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