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樋口先生の「失敗に学ぶ経営塾」WEB講座:第3回 閉鎖的な人事ー関西電力のコンプライアンス違反事件

2020.09.08

もくじ

第11回 ACFE JAPAN カンファレンス(オンライン開催)の登壇者でもある、危機管理・リスク管理の研究者 樋口先生による企業不祥事解説の連載記事です。第1回~第5回まで、関西電力で行われてきた長年の金品受領問題を紐解いていきます。第3回の本稿は、閉鎖的な人事がもたらすリスクについて解説します。

1.不可解な人事異動

 本事件で多額の金品を受領していた原子力事業本部の幹部3人は,いずれも原子力畑の技術者である。X1氏(1978年入社)は,2003年に副事業本部長,2009年に事業本部長代理,そして2010年に事業本部長に就任した。X2氏(1979年入社)は,高浜発電所長を経て2009年に副事業本部長となり,2013年に事業本部長代理に就任した。X3氏(1984年入社)は,大飯発電所長を経て2013年に副事業本部長に就任した。

 2018年9月に金品受領事件に関する社内処分が下され, X1氏は報酬月額の2割を2か月返上, X2氏・X3氏は厳重注意という内容であった。翌年6月にはX1氏が退職し, その後任にX2氏,そしてX2氏の後任にX3氏がそれぞれ昇任する玉突き人事が行われた。X1氏の退職はかねてから予定されていたことであり,これまでの流れからすれば順当な人事と言えよう。しかし,彼らが多額の金品を受領したことが認知されていたにもかかわらず,このような人事が行われたことは不可解である。

 ちなみに, 本事件は社外には非公表とされていたが, この不透明な人事異動に対する失望から内部告発が行われ, 世間の知るところになった。

2.業務の特殊性による閉鎖的人事

 原子力事業本部では, 生え抜き技術者が,副本部長→本部長代理→本部長と順繰りに幹部ポストを固め,人事が閉鎖的になっていたために,思考の転換ができずに問題が長年にわたり放置されたと認められる。その背景として,事業の特殊性から容喙(ようかい)が困難である上に,原子力事業本部が関電の経営のカギを握る状態が続いていたことが挙げられる。おそらく社内では原子力事業本部が「独立王国」と化し,その人事に介入することが社内政治的に困難であったと推察される。

 筆者の過去の研究では, 「業務内容の特殊性のために監督が不十分になるとともに,人事配置も閉鎖的・長期的になるために,組織不祥事が誘発されるリスク」を抽出し,「業務の特殊性のリスク」と定義している。その一例として, 東芝不正会計事件では,経理部門に配属された社員が退社まで継続して同部門に配属されることが通例だったため,「経理畑」の人間関係が濃密となって内部統制環境が悪化し,前任者がレールを敷いた不正な会計処理を盲目的に継続していた(樋口(2017)参照)。

 近年, 多くの企業で発覚した性能偽装事件でも, 「専門技術なのでよく分からない」との理由で当該部署に任せきりとなり, 不正に気付くまで長い期間がかかったというケースが散見される。おそらく読者の企業でも, 業務内容が特殊であるために「○○村」「△△屋」などと呼ばれる閉鎖的な社内部署が存在するのではなかろうか。その閉鎖性を解消しないと, 将来的に不祥事が生起するおそれがあることに留意しなければならない。

 また,1994年の美浜原発事故(配管の破裂で作業員5人が死亡)を契機に関電が「地域との共生」を打ち出し,2005年に原子力事業本部が福井県美浜町に移転されたことも「独立王国」化を助長した可能性がある。地理的に切り離されてしまうと, 普段のちょっとした接触が無くなり, その内情が見えにくくなるためだ。例えば, メルシャンの循環取引事件では,不正を行っていた水産事業部が九州に設置されていたため,東京の本社では実態把握が困難になっていたとされる(樋口(2015)参照)。

3.ローカルトップ企業ゆえの客観的視点の欠如

 本事件が報道された時の在京上場企業の反応は,「コンプライアンス感覚の違いに唖然」「東京では考えられない話」といったものであった。

 あくまで筆者の印象であるが, 20世紀の日本では, 1997年に第一勧業銀行で発覚した総会屋利益供与事件のように, 業務上のしがらみにより「問題のある人物」と不適切な関係に陥ってしまうことは, それほど珍しい話ではなかった。しかし21世紀に入って企業の社会的責任(CSR)やコンプライアンスが強調されるようになり,こうした関係の解消が進められた。言い換えれば,そうした時代の流れに関電が取り残されていたことになる。

 東京であれば最先端の経営情報を入手しやすいが,地域密着の公益企業である関電は,情報収集の面で不利は否めない。それに加えて,東京には様々な大企業が集結しているため,自然と自社を相対化して見ることができるが,関電は関西圏では飛び抜けたローカルトップ企業であるため,周囲から何かと忖度されがちとなる。かくして自らを客観視できずに「井の中の蛙」と化し,世間の常識から乖離してしまったことが,問題を長年にわたって放置した要因の一つと考えられる。

 第4回は, 本事件発覚後の危機管理対応に関電が失敗した理由として, 調査委員会の機能不全と元経営幹部の相談役による不適切な助言について解説する。

【今回の要点📝】

閉鎖的な社内部署は「淀み」のようなもの, そのまま放置しておけば腐るおそれがある。
「専門的な分野だから・・・」と言い訳するのは監督の放棄にすぎない。

【参考資料】

  • 第三者委員会(2020) 『調査報告書』(第三者委員会報告書)
  • 調査委員会(2018) 『報告書』(調査報告書)
  • 樋口(2015) 『なぜ, 企業は不祥事を繰り返すのか 有名事件13の原因メカニズムに学ぶ』日刊工業新聞社
  • 樋口(2017) 『続・なぜ, 企業は不祥事を繰り返すのか 重大事件から学ぶ失敗の教訓』日刊工業新聞社

警察大学校警察政策研究センター付
博士 警察庁人事総合研究官
樋口 晴彦
ひぐち はるひこ

1961年、広島県生まれ。1984年より上級職として警察庁に勤務。愛知県警察本部警備部長、四国管区警察局首席監察官等を歴任、外務省情報調査局、内閣官房内閣安全保障室に出向。1994年に米国ダートマス大学でMBA取得。警察大学校教授として危機管理・リスク管理分野を長年研究。2012年に組織不祥事研究で博士(政策研究)を取得。危機管理システム研究学会理事。三菱地所及びテレビ東京のリスク管理・コンプライアンス委員会社外委員。一般大学で非常勤講師を務めるほか、民間企業の研修会や各種セミナーなどで年間30件以上の講演を実施。

【著作】
『ベンチャーの経営変革の障害』(白桃書房 2019)、『東芝不正会計事件の研究』(白桃書房 2017)、『続・なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか』(日刊工業新聞社, 2017)、『なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか』(日刊工業新聞社, 2015)、『組織不祥事研究』(白桃書房 2012)など多数。その他に企業不祥事関連の研究論文を学術誌に多数掲載。コラム「不祥事の解剖学」(ビジネスロー・ジャーナル誌)、同「組織の失敗学」(捜査研究誌)を連載中。

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