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樋口先生の「失敗に学ぶ経営塾」WEB講座:著作権侵害事件とベンチャー経営シリーズ 第1回 ゲーム会社D社-過去の不祥事と成長最優先の企業体質

2020.10.27

もくじ

第11回 ACFE JAPAN オンラインカンファレンスにて講演いただいた、危機管理・リスク管理の研究者 樋口先生による企業不祥事解説の連載記事です。今回からは、著作権侵害事件とベンチャー経営シリーズとして、第1回~第5回にて、ゲーム会社の不祥事事例を解説すると共にその企業体質を紐解いていきます。第1回の本稿は、事業拡張を先行しコンプライアンスの観点を考慮しなかったがゆえに法令違反となった経緯について解説します。

1.D社の事業展開

 D社では、2006年に開始したサービスが急成長し、2013年3月期には売上高2025億円・営業利益768億円に達したが、翌期から業績は下降を続けた。既存のブラウザゲームの利用が減少するなどして、主力のゲーム事業が不振に陥ったためである。D社は、海外でのゲーム事業にも多額の資金をつぎ込んでいたが、こちらも上手くいかなかった。特に大きな損失を出したのは米国事業である。

 D社は、2008年に米国に100%出資子会社D1社 を設立し、2010年にはソーシャルゲームアプリの開発・提供を事業とする米国企業D2社を325百万ドル(うち313百万ドルがのれん)で買収した。しかし、2015年3月期には、D1社 等について551億円もの関係会社株式評価損を計上し、これまでの対米出資のほぼ全額の減損処理を行った。さらに2017年3月期には、D1社及びD2社を解散した¹。

 D社はゲーム事業以外にも様々なIT事業を手掛けたが、サービス終了あるいは事業売却に追い込まれたものが多く、ゲーム事業の落ち込みをカバーできなかった。このようにゲーム事業に依存する構造から依然として脱却できないことへの焦りが、著作権侵害事件へとつながっている。

2.独占禁止法違反事件

 D社は、著作権侵害事件の前にも2件の不祥事を起こしている。その第1が、ゲーム事業で競合するG社に対し、独占禁止法第19条違反となる「競争者に対する取引妨害」を行ったとして、2011年6月に公正取引委員会から排除措置命令を受けた件である。分かりやすく言えば、「G社にゲームを提供する事業者とは取引しない」と圧力をかけ、G社との取引を止めさせようとしたのである。

 同事件に関してH氏(当時は常務取締役・CFO)は、「 (公正取引委員会の)立ち入り検査の前に、僕は『やり過ぎると、お前、公取委に入られるで』という話は社内でしていた」と述懐している² 。つまり、D社の経営陣は、独占禁止法上問題となり得る行為が現場で進められていることを承知しながら、対策を取らずに放置していたのである。

 公正取引委員会審決集(58-1)によれば、この妨害行為が組織的に実行され、ソーシャルゲーム提供事業者の過半がG社との取引を断念するなど、G社に実害を与えたことは明白である(同191頁)。それにもかかわらず、N氏(現会長)は、「当社に法令に違反する事実があったとは思っておりません」と自著で述べている。まるで違法行為がなかったかのような説明は、事件を矮小化して世間をミスリードするものと言わざるを得ない。

3.景品表示法違反事件

 2009年にゲーム事業の責任者に就任したM氏(現社長)は、ゲーム上のアイテムに対する課金を収益の柱とするビジネスモデルに転換した。そのアイテム課金の重要な手段が、プレイヤーにアイテムを有料で供給する「ガチャ」と呼ばれる仕組みであった。ところが、2012年に消費者庁は、D社などのゲーム事業者が実施している「コンプガチャ」を景品表示法第4条に違反する「カード合わせ」と認定した。

 「コンプガチャ」とは、「コンプリート」と「ガチャ」の合成語であり、「ガチャ」によって特定の数種類のアイテムを「コンプリート」すると、希少なレアアイテムを入手できる仕組みである。「ガチャ」でどのアイテムを入手できるかは偶然に左右されるため、「コンプリート」するまでに「ガチャ」(1回数百円)を多数回行わなければならない。このように射幸性が強い「コンプガチャ」を導入した結果、一部の消費者が高額の課金を請求されるトラブルが続出していた。その背後には、中毒状態に陥ったヘビーユーザーをゲーム業界が食い物にするという醜い構図が存在した³。

 消費者庁の要請を受けてD社は、速やかに「コンプガチャ」を廃止した。しかし、ガチャ関連の高額課金はかねてから社会問題化しており、前述のH氏が、「いち早く「やりすぎは良くない」「長続きしない」と社内に警鐘を鳴らしていた」⁴ とされる。言い換えれば、D社経営者は高額課金問題を認識していたにもかかわらず、消費者庁が景品表示法違反と発表するまで「コンプガチャ」を続けていたのである。

4.D社の体質-ベンチャーだからしょうがない?

 D社は、経営者のN氏の好感度の高さや、球団経営のおかげで、世間的には非常に良いイメージがある。しかし、以上の2件の不祥事は、いずれも業績を上げることを目的としたもので、事件自体が悪質であるだけでなく、当時の経営者の対応もコンプライアンス及びCSRの観点から不適切と言わざるを得ない状況であった。

 しかも、これらの不祥事に関して、組織としての深刻な反省がなされたかどうか疑わしい。独占禁止法事件については、前述のとおりN氏が、違法行為はなかったかのように糊塗する説明をしている。また、景品表示法違反事件については、「コンプガチャ」は廃止されたものの、それに類似した射幸心を煽る課金システムは継続されている。

 こうした対応の背景に見え隠れするのが、「ベンチャーとしてひたすらに成長を追求する」というD社の企業体質である。成長最優先でひたすら邁進し、何か問題が発生したときには、「我々はベンチャーだからしようがない」で済ませているようでは、いつまでも不祥事がなくなるわけがない。次回は、こうした同社の企業体質が鮮明に表われた事例として、著作権違反事件について解説する。

【今回の要点📝】

不祥事の苦い経験から学ぶには、深刻な反省が社内で共有されなければならない。
そのためには、経営者自らが率先して反省の姿勢を示すことが不可欠である。

【注釈および参考資料】

<注釈>

  1. D社では、個別財務諸表で米国事業の評価損を計上する一方で、連結決算では当該子会社ののれんに関する減損損失を計上しなかった。これに対して筆者は、拙著『ベンチャーの経営変革の障害』の中で、損失隠しの疑いがあるとして同社の姿勢を厳しく批判している。ちなみにD社は、ようやく2020年3月期に米国事業に関して494億円の減損損失を計上した。
  2. 日経ビジネスオンライン2015年4月16日記事(https://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20150415/279999/?ST=print)
  3. 「「『いいゲーム』と言えるかどうかは、どれだけアイテムを買わせるかにかかっている」と話す(ゲーム開発会社の)男性は、「決め手は『ハイジン(廃人)課金者』に、いかに長く続けさせるかだ」と明かす。「ハイジン課金者」とは、月に数万円は使うユーザーを指す隠語。ゲームにのめり込む様子を揶揄してこう呼ぶという。「課金者が全体の1割を超えるのが目標。搾り取り過ぎるとユーザーが離れてしまうから、加減が大切だ」」(読売新聞2012年5月14日夕刊記事「コンプガチャ問題 「搾り取り 加減大切」」)。
  4. 日経ビジネスオンライン2015年4月20日記事(https://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20150417/280086/?ST=print)

<参考資料>

  • 第三者委員会(2017) 『調査報告書(キュレーション事業に関する件)』(第三者委員会報告書)
  • 南場智子(2013) 『不格好経営』日本経済新聞出版社
  • 春田真(2015) 『黒子の流儀』KADOKAWA
  • 樋口晴彦(2019) 『ベンチャーの経営変革の障害』白桃書房

警察大学校警察政策研究センター付
博士 警察庁人事総合研究官
樋口 晴彦
ひぐち はるひこ

1961年、広島県生まれ。1984年より上級職として警察庁に勤務。愛知県警察本部警備部長、四国管区警察局首席監察官等を歴任、外務省情報調査局、内閣官房内閣安全保障室に出向。1994年に米国ダートマス大学でMBA取得。警察大学校教授として危機管理・リスク管理分野を長年研究。2012年に組織不祥事研究で博士(政策研究)を取得。危機管理システム研究学会理事。三菱地所及びテレビ東京のリスク管理・コンプライアンス委員会社外委員。一般大学で非常勤講師を務めるほか、民間企業の研修会や各種セミナーなどで年間30件以上の講演を実施。

【著作】
『ベンチャーの経営変革の障害』(白桃書房 2019)、『東芝不正会計事件の研究』(白桃書房 2017)、『続・なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか』(日刊工業新聞社, 2017)、『なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか』(日刊工業新聞社, 2015)、『組織不祥事研究』(白桃書房 2012)など多数。その他に企業不祥事関連の研究論文を学術誌に多数掲載。コラム「不祥事の解剖学」(ビジネスロー・ジャーナル誌)、同「組織の失敗学」(捜査研究誌)を連載中。

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