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<連載>日本電産の元CFOが教える、コロナ危機を乗り越える秘訣③―企業経営者のみならず、管理職や中堅社員、若手社員、全てのビジネスパーソンに送るアドバイス
2021.02.09
日本電産をはじめ、三菱電機の海外法人や外資系企業などで長年CFO(最高財務責任者)として企業の経営の羅針盤を示す立場を務めた経験から、コロナ禍で企業経営に悩む経営者や経理財務責任者の方から悩みを聞く機会も多い吉松氏。「先行きが見通せない」という声がやはり多いという。
※インタビュー・撮影は、感染対策を行った上で2020年12月末に都内の弊社本社会議室で行いました。
―リーマン・ショックなどの時も、先行きが見通せない状況だったと思います。様々な危機を乗り越えてきた経験から、このコロナ禍で企業経営に求められるものは何ですか。

吉松加雄氏:経済や市場の先行きを見通せない危機に直面した時でも、企業経営者は限られた情報に基づいて経営判断を求められます。そして、経営者の意思決定を支援するCFOは、危機意識を高め適切な意思決定に資する数値化された業績予測の提供が求められます。日本電産でリーマン・ショックを経験した時に、シリコンバレーの流儀「最善を期待しながら、最悪の事態に備える」(”Hope for the Best, Prepare for the Worst”)で永守重信会長に3つの業績シミュレーションを報告したことをお話ししました(第二回記事)が、危機の真っただ中にいる時は、「精緻よりスピード」で業績予測と対策提案を行うことです。経理財務部門では、経営者に提供するデータに誤りがあってはいけないので精度を上げようとして精緻化にこだわり時間をかけすぎてしまう傾向があります。しかし危機にあっては、様々な前提は考えられますが、それらの前提がどれくらい正しいかを確認する十分な時間はないので、ある程度の精度を確保したうえで、精緻よりスピードが求められるのです。経営者が求める即時の意思決定に必要なレベルとスピードで、危機の状況を数値化・定量化して予測を行い、さらに具体的な対応策も提案をして危機対応につなげていくのです。そういう対応ができた企業は、コロナ禍の影響が大きい業種でも比較的回復が早かったと思います。
―既にコロナインパクトを受けとめて回復しつつある業種や会社はありますか。
吉松氏:例えばトヨタ自動車ですね。2020年5月の段階で、市場動向について四半期ごとの回復の前提を置いて業績予想を発表しました。そして11月の中間決算発表では、自動車産業全体の回復も受けて業績予想の上方修正を発表しました。業績予測の指針を持っている会社は、危機対応も早く進められると思います。自動車産業全体の回復は、関連部品も含めて早かったですね。
―コロナ禍で表面化した日本企業の弱点はありますか。
吉松氏:以前から弱かったところがあぶりだされてきたと思います。日本に本社があり、海外に買収した子会社や工場があるグローバル企業では、コロナ前から3G、いわゆる「グループ、グローバル、ガバナンス」の対応強化が課題の企業が多かったと思います。もっと経営管理を強化してグリップを効かせないといけないな、と思っていたところにコロナショック。経理財務関連では、実地棚卸しができないとか、社員が出社できずリモート決算もできないなどの問題が顕在化しました。ある社団法人の調査では、決算発表が例年より遅れた会社の遅れの原因は、海外子会社の「監査対応」や「連結決算用報告の提出」が過半数にのぼっています。それから、ガバナンスの弱点補強についても課題認識していたところにコロナ禍という大波がやってきました。
―ガバナンスに弱点があってトラブルに直面した企業というのは、まだあまり耳にしないですね。
吉松氏:ACFE(Association of Certified Fraud Examiners;公認不正検査士協会)の調査結果からみても、ニュースになっている事例はまだ比較的少なく、これから内部統制上の不備の問題が出てくる懸念があると思われます。
アメリカに本部を置く不正対策の世界的組織であるACFE (Association of Certified Fraud Examiners;公認不正検査士協会)が行っている調査では、2020年11月の時点で79%の不正対策専門家が、不正が増加しているとの認識を示しているほか、90%の不正対策専門家がこの先1年で不正が増加するとの懸念を示している。
(“FRAUD IN THE WAKE OF COVID-19: Benchmarking Report DECEMBER 2020 EDITION” 2020年12月公表
https://www.acfe.com/uploadedFiles/ACFE_Website/Content/covid19/Covid-19%20Benchmarking%20Report%20December%20Edition.pdf)

吉松氏:企業の経理部門の方や監査法人、弁護士の方などとお話しをすると、コロナ禍で企業の内部監査が十分にできていないという声を聞きます。日本から海外の子会社や工場の内部監査に行けず、不正増加に対する警戒感が高まっています。内部監査は現場に出向くことでけん制になり、経営品質向上につながります。監査の間があいてしまう、あるいはリモートで行うとなれば、けん制の意味合いが薄れてしまいます。例えば、工場なら現場に入った瞬間に、その工場の緊張感や管理のレベルはすぐにわかります。現場の作業員の動きや作業効率、機械の稼働状況、部品、材料、仕掛品、製品の在庫の状況、工場の規律や効率、整理整頓の状況などです。約20年前に、当時CFOを務めていた会社の実地棚卸しに監査法人のある幹部の方(パートナー)に立ち会っていただいたことがありますが、目の付け所や質問、指摘のレベルが高くて内容も鋭く、とても勉強になりました。その際に学んだことは、その後M&Aで買収した会社の工場を最初に視察する際に、本質的な課題をすぐに把握することにもつながりました。現場に行けないというのは、そういう現場感覚、空気を肌で感じられなくなります。コロナ禍が収束して内部監査が再開されると、グループ経営で目の行き届かなかった領域で不備や不正が顕在化してくるリスクや懸念があると思います。
コロナによって変革が強制されているビジネス。だが改革が遅れている企業にもチャンスはあるという。コロナ禍で生き延びるにために、企業がとるべき対応とは。第四回記事につづく。
リーマン・ショックや主力製品の生産拠点があるタイの洪水など度重なる危機を乗り越え、日本電産を飛躍的な成長に導いてきた吉松加雄氏が語る、コロナ危機を乗り越える秘訣。全四回で連載します。

代表取締役社長兼CEO
慶応義塾大学経済学部卒、スタンフォード大学経営大学院修了。三菱電機株式会社のイギリス、シンガポール、アメリカの現地法人、サン・マイクロシステムズ日本法人、エスエス製薬株式会社等のCFOを歴任。2008年日本電産株式会社に入社後10年間常勤役員、うち2009年より7年間取締役常務/専務執行役員兼CFOを務めた。米金融専門誌Institutional Investor誌のCFOランキングで電子部品セクターのベストCFOに2013年から4年連続選出。62歳。
<連載 日本電産の元CFOが教える、コロナ危機を乗り越える秘訣 全四回>