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企業で内部通報制度が信頼されるには?オリンパス内部通報者 濱田氏に聞く<全5回>

2021.09.27

オリンパス元社員の濱田 正晴氏は、上司の不正行為を内部通報し、報復人事など様々な嫌がらせを受けてオリンパスと裁判で闘ってきた。2022年6月までに施行されることが決定している改正公益通報者保護法や、それによる企業の内部通報制度のあり方、経営陣が持つべき姿勢などについて濱田氏の経験に基づく分析や考えを聞く連載。第4回は、企業が内部通報制度を促進するために解消するべき「不安」について話を聞いた。

44.2%が「通報の秘密保持・匿名性」を一番に重視

消費者庁のアンケート(平成28年度実施)によると、「公益通報者保護制度の実効性を向上するために必要な措置は?」という質問に対して、一番多い44.2%の回答を得たのが「通報者氏名・所属等の秘密保持が徹底され、通報者の匿名性が確実に守られること」であった。(回答数=3471)

濱田氏の内部通報は秘密保持が守られず漏洩

濱田氏はオリンパス在職時の2007年6月11日、社内の内部通報制度を利用して上司の行為をコンプライアンス室に内部通報した。通報を受けたコンプライアンス室が濱田氏に回答メールを返信する際、濱田氏の承諾を得ずに宛先に通報対象者である上司や人事部長を含めるという極めて杜撰な情報管理により、内部通報者が濱田氏であることが漏洩した。

東京弁護士会は、通報内容の無断漏洩は人権侵害と認定

濱田氏は東京地裁に提訴した翌年の2009年、東京弁護士会に人権救済を申し立てした。そして東京高裁(二審)逆転勝訴の翌年の2012年、東京弁護士会は「濱田氏への重大な人権侵害にあたる」とオリンパス社に対して警告をしている。

東京弁護士会 平成24年1月27日「人権侵害救済申立事件について(警告)」より一部を転載

貴社において行われた以下の対応及び行為は、いずれも、申立人の人格権を侵害するものです。したがって、その点を十分考慮した上で、今後、申立人の要望をふまえて申立人を適切な部署に配置し、申立人の業務を適正に評価するよう是正するとともに、二度とこのような人権侵害行為に及ぶことのないよう警告します。
平成19年6月27日、貴社IMS事業部のA事業部長(以下、「A氏」といいます。)に対して、申立人が同年6月11日に貴社のコンプライアンス室に通報を行った事実を伝えたこと。
② 申立人を、平成19年10月1日付けで、貴社のIMS事業部IMS企画営業部部長付きに配置転換し、新事業創生探索活動に従事させたこと。
③ 申立人が達成できない業務目標の設定、部外者との接触禁止、申立人との面談時における上司らによる不適切な言動、申立人の業務成果を正当に評価せずに著しく低い人事評価などを行ったこと。

Q:東京弁護士会が情報漏洩は人権侵害だと警告したことについて、どう思われましたか?

濱田氏:内部通報制度の信頼性を担保する基盤こそが、通報者情報の秘匿厳守だと考えていました。その考えがあっても、無断漏えい自体が人権侵害行為と認定されたことには少し驚きましたが、この漏えいが発端となって激しいパワハラなどにつながったわけですから、深く“なるほど”と感じさせられましたし、無断漏えいに罰則がないことなどは、公益通報者保護法の重大な瑕疵だと考えるようになりました。

Q:通報内容の情報漏洩を防止するにあたって、企業にはどんな準備が必要でしょうか?

濱田 氏:本改正法の建付けでは、正当な理由がある場合(例えば本人の承諾があった場合)に通報者情報の共有が可能であるとなっています。このことから、通報者情報の「共有承諾書」又は「共有非承諾書(共有を承諾しない)」は最低限用意しておくべきです。
さらに、上記承諾を得ないと調査ができない場合も考えられますから、それを想定して、承諾しても通報直後の人事異動などの不利益を被らない安心感を通報者に持ってもらえるような企業風土が必要です。とりわけ、日本の企業文化がもたらす閉鎖的な企業風土の大変革を進めるために、役員の本改正法の知識向上や勇気をもって内部通報する従業員を大切にするんだという意識改革を行い、従業員から強く信頼される内部通報窓口を本気で確立することが重要です。

内部通報制度の信用が低いのは企業リスク

Q:企業の中で内部通報制度の信用が低いと、政府や報道機関など外部へ通報が行われる可能性が高くなり、対応も後手後手になります。企業が従業員の不安を和らげ内部通報制度への抵抗をなくすには、何が必要でしょうか。

「内部通報すると人事に影響する」という不安を解く

濱田 氏:「コンプライアンス室と人事部は通じている」、「わざわざ人事部に目を付けられるような事はしたくない」と思うのが、日本のビジネスパーソンの思考文化ではないでしょうか。その不安を払拭するには、人事部のイメージを刷新することも必要なのでは?と思います。

”一般的な人事部” といえば、入社してから人事部や総務部にしか所属したことがない根っからの管理部門畑(とりわけ、コーポレート部門のみの経験)の人たちが多いでしょう。それだと、営業や一般事務、更に開発・製造部門などの人の気持ちが分かりづらいし、信用されるのは困難だと思うんです。そのイメージを変えるには、人事部やコンプライアンス内部通報窓口部門へ他の職種から人をいれる。人事部にいろいろな職種から人がきていると分かれば、コーポレート部門以外の仕事をしている人にも安心感が生まれるはずです。最近、オリンパスの人事部門が以前とは全く違って風通しが良くなっているなと思えるのは、やはり事業体などから人を積極的入れているからだなと感じます。

濱田 氏:オリンパス社員時代、海外赴任予定者へグローバル教育を行う研修主査として、複数の教育会社にいる外国人講師の方などへマネジメントを行っていた時のことです。他のグローバル企業で、いろいろな事業体の経験を積まれてきた外部教育会社の国籍の異なる講師の方々に、グローバルベースのコンプライアンス(法令及び企業倫理順守)のことを語ってもらっていましたが、やはり共感力・共鳴力そして説得力が違う。
コンプライアンス内部通報窓口の担当者を決める際にも、このような視点で社外や他の事業体からの登用を行えば、いい意味でも悪い意味でも新しい文化をもたらしたり、異なるビジネス経験を有する人事部を築くことができるでしょう。それがコンプライアンス内部通報窓口への信頼度アップにつながると思います。

そのような組織変革を俊敏に実行すれば、内部通報窓口が人事部門との繋がりがあっても従業員に安心して信頼されるコンプライアンス組織の抜本的改革につなげることが可能になり、「内部通報すると人事異動に影響する」などという不安の解消につながるはずです。言うは易し、実行はなかなか難しいですけどね。

いくつもの「不安」が内部通報の壁

濱田 氏:通報したって所詮会社は組織を守るから「通報した従業員が守られるなんてことは考えにくい」というのは従業員に定着していると思うんです。オリンパス在職中も、そういった従業員からの話をよく聞きましたから。
「内部通報した後、きちんと調査できるのか?ちゃんと是正できるのか?」という疑念に対して、会社がメッセージ以上のもので従業員に浸透させないと「私が通報したところでなにも変わりはしない」という思いが通報を邪魔してしまうでしょう。メッセージ以上というのは、Face to Faceでの経営者・内部通報窓口担当者と従業員の頻繁な直接対話。私はそう確信しています。
また、コンプライアンス室が内部通報窓口の信頼アップPRをするために「通報が増えています」と内部通報回数の増加推移をグラフで伝えることもありますが、これでは従業員の不安は解けない。示すデータやグラフには、必ず説得力ある裏づけが必要です。これがない絵に描いたようなグラフなどでは、従業員の信用を得ることは実に困難というか逆効果かもしれません。裏づけを伴うデータによる内部通報窓口の強い信頼性を築かなければいけないのです。

ひとえに企業側がどうやって内部通報者への不安を払拭するか?ビジネスパーソンが何を思っているか?ということを現在起きているリアリティを調べ抜いた上で、考えて理解するところから始めて、それを解決するにはどうしたらいいか?ということを従業員との対話を通じて確立できたならば、内部通報制度に対して従業員が有す数々の「不安の壁」が打破できる可能性は出てくると思います。

「本当に調査ができるのか」という不安

Q:調査できるのか?という不安のお話がありました。濱田氏が行った内部通報では本来、どんな調査方法が好ましかったと思われますか?

濱田氏:残念ながら当時のオリンパスにおいては、どんな調査方法が好ましかったかはあてはまりません。なぜなら、その時は長期に及ぶ組織的な粉飾決算が行われていた最中であり、会長をはじめとした複数の主要役員が、逮捕、起訴、有罪となったほど企業風土が腐り切っていたのですから。
ただし、私の内部通報訴訟を経験したオリンパスは現在、グローバル視点での内部通報を奨励し、内部通報者を守るという意味においても、その発信力などを含めて飛躍的に良くなっていると思います。裁判終了(和解)後に始まったオリンパスコアバリュー(誠実、共感、長期的視点、俊敏、結束)の実践などもそれの一環だと思っています。
もし、当時のオリンパスの企業風土が、高い次元で従業員の信頼を得られる状況にあったとしたら、私に降りかかった8年間もの長期法廷闘争を生んだ “内部通報告発漏れ” や “制裁人事人権侵害” は、起こらなかったかもしれません。

上記のオリンパスコアバリュー的な“私たちの存在意義”をひつこいほどのエネルギーを持って経営者が掲げて従業員と共有することは、とても重要だと思います。
その上で、被通報者本人にだけは、“絶対に通報者情報が漏れない調査方法で”、“経営者が内部通報窓口関係者と一緒になり”、“知恵を出し合い工夫して構築する”。“それを従業員に具体的に示した上で”、“それに沿った調査方法を実践する”ことが好ましいと言えるでしょう。例えば、まったく関係ない社内セクションと連携して、まずは、そこからの調査を始めることなどが考えられます。

Q:従業員に示す時、どのようなメッセージが不安を緩和できるでしょうか。

濱田氏:従業員へ改正公益通報者保護法について伝える時(施行前には、当然伝えなければなりませんが)、内部通報の長となる役員をはじめ、内部通報窓口セクションの責任者や窓口担当者が自らの顔を見せて、自らの声で、改正法に則った内部通報制度への心構えや具体的な想いを語りかけることが重要です。その上で、ケーススタディ(例えば、オリンパスで起きた私の内部通報事件についてグループワークをしながら、その発生原因や防止策など考えてみるなど)を交えながら具体的な内部通報者情報の扱い方法や調査方法などを伝え、従業員と一体となって改正公益通報者保護法を見据えた準備、そして施行後のやるべきことを明確にしておくことが内部通報制度への信頼と安心につながるのです。

オリンパス内部通報者の濱田正晴氏に内部通報制度や公益通報者保護法について聞く連載。全5回で掲載します。


濱田 正晴
はまだ まさはる

濱田正晴氏は1985年にオリンパスに入社し、開発、営業、マーケティング等の業務に従事してきた。営業の仕事に邁進していた頃、当時の上司が取引先重要顧客である大手製鋼メーカーの独自技術を知る営業社員を立て続けにオリンパスに引き抜こうとしているのを目の当たりにし、2007年に同社のコンプライアンス室に内部通報した。ところがコンプライアンス室の担当者は、濱田さんが内部通報したことを上司に漏洩。さらに会社としても濱田さんを専門外の部署に異動させる、社内の人間関係から孤立させる、最低の人事評価を与える、密室で大声で叱責するパワハラなど、数々の不利益な取り扱いを行った。濱田氏は2008年2月に配転命令の無効と損害賠償を求めて提訴したほか、東京弁護士会に人権救済を申し立てるなどしてオリンパスと闘ってきた。不当な人事や名誉の回復を求める訴訟も含めた8年間に及ぶ裁判の末、2016年2月にオリンパスと和解した。
内部通報をした経緯は、著書「オリンパスの闇と闘い続けて 浜田正晴 光文社(2012年)」で詳しく解説されている。2021年3月にオリンパスを退職し、現在は自身の経験を糧に改正公益通報者保護法や内部通報制度に関するセミナーなどで講演するほか、アドバイザー業務も行っている。

濱田氏ブログ: https://ameblo.jp/jpmax/

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