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樋口先生の「失敗に学ぶ経営塾」WEB講座:第5回 監査役会の機能不全ー関西電力のコンプライアンス違反事件

2020.10.13

もくじ

第11回ACFE JAPAN オンラインカンファレンスにて講演いただいた、危機管理・リスク管理の研究者 樋口先生による企業不祥事解説の連載記事です。第1回~第5回まで、関西電力で行われてきた長年の金品受領問題を紐解いていきます。第5回の本稿は、問題を深刻化させた監査役会の機能不全と役員報酬補填問題について解説します。

1.監査役会の機能不全

 前回説明したように, 情報漏洩のリスクを避けるとの理由で, 本事件は取締役会(特に社外取締役)に報告されなかった。しかし, 本事件の調査に当たった事務局が, そうした上層部の方針を知らずに, 常任監査役に報告してしまった。常任監査役は事務局へのヒアリングを進めるとともに, 社外監査役と個別に面談して本事件について説明し, 監査役会としての意見を調整した。当時の関電は,以下の4人の社外監査役を選任していた。

  • Y1氏(2003年就任,弁護士・元検事総長)
  • Y2氏(2011年就任,元大学教授,都市計画・環境問題の研究者)
  • Y3氏(2015年就任,エネルギー問題の研究者)
  • Y4氏(2017年就任,大手電機メーカーの元社長)

 2018年11月に作成された監査レポートは,執行部の一連の対応について「概ね妥当」と結論付け,本事件を非公表とする方針を追認している。また,会社法第382条に基づく監査役会から取締役会への報告についても,その必要はないとの認識が監査役の間で共有されていた。

 その理由として,前回説明したとおり調査報告書がコンプライアンス上不適切だが違法ではないと整理していたことに加えて,常任監査役が弁護士のY1氏に相談した際に,会社法第382条の報告は不要と確認したことを挙げている。しかし,会社法は個々の監査役に報告義務を課しているのであり,他者の見解に安直に依拠することは許されない。

2.社外監査役の人選に問題あり?

 会社法第382条の報告を不要とした件について, 当のY1氏は, 第三者委員会のヒアリングの際に,「すでに全取締役に報告されていると思っていた」と弁解している。しかし,監査役は取締役会に毎回参加しており,本事件の報告がなかったことをY1氏も承知していたはずである。Y1氏は2003年に社外監査役に就任しており,在任期間が長すぎたことが判断を誤らせた可能性がある。

 上場企業が良質な企業統治を確保するための指針として,経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」が作成した「社外役員等に関するガイドライン」(2014年6月30日)は,社外役員に最長在任期間を設定することを求めている。在任期間が長くなるとマンネリ化が避けられない上に,執行側との人間関係が濃くなって,緊張関係が失われてしまうためである。

 Y2氏とY3氏については,経歴的に経営知識が不足していたため,問題の重大性に気付かなかったのではないだろうか。その意味では,この2人を社外監査役として選任したこと自体に問題があったと言えよう。その一方で,大手電機メーカーの元社長であるY4氏が本事件の重大性を看過したことは不可解と言わざるを得ない。

3.役員報酬補填問題

 第三者委員会の調査で, 関電社内を揺るがす重大事実が発覚した。前回説明したとおりX1氏は常勤嘱託に退いていたが, その報酬(月額490万円)の中に, 本事件に関連してX1氏が追加納税した分の補填(月額30万円)と, 東日本大震災後の役員報酬カットに対する補填(月額90万円)が含まれていたのだ。

 前者については, 甲会長と乙社長が, 相談役の丙氏に相談した上で,X1氏以下の多額受領者が追加納税した金額を役員退任後に5年間かけて会社が補填することにしたものである(今回の人事で退任者はX1氏だけであった)。後者については, 2015年に丙氏(当時会長)と甲会長(当時社長)が相談して,東日本大震災後に経営難に陥っていた際の役員報酬カット分について,同様に役員退任後に補填することにしていた¹。これらの補填は秘密にされており, 今回明らかになったことで社内に衝撃が走った。

 特に後者については, 震災後に一般社員も給与カットや賞与停止の形で痛みを分かち合っていたにもかかわらず,密かに経営幹部にだけ補填したことには何の理も認められない。まさに背信行為であり,経営陣と現場の間に大きな亀裂が入ったことは疑いを挟む余地がない。現経営陣は,現場とのコミュニケーションに努め,社内の信頼関係を再建することに注力すべきであろう。

【今回の要点📝】

お飾りの社外役員をいくら集めても意味はない。
社外役員の「数」だけでなく, その「質」についても, そろそろ目を向けるべきだ。

【注釈および参考資料】

<注釈>

  1. 丙氏を含む18人が,すでに総額約2億6千万円を受け取っていた。

<参考資料>

  • 第三者委員会(2020)『調査報告書』(第三者委員会報告書)
  • 調査委員会(2018) 『報告書』(調査報告書)

警察大学校警察政策研究センター付
博士 警察庁人事総合研究官
樋口 晴彦
ひぐち はるひこ

1961年、広島県生まれ。1984年より上級職として警察庁に勤務。愛知県警察本部警備部長、四国管区警察局首席監察官等を歴任、外務省情報調査局、内閣官房内閣安全保障室に出向。1994年に米国ダートマス大学でMBA取得。警察大学校教授として危機管理・リスク管理分野を長年研究。2012年に組織不祥事研究で博士(政策研究)を取得。危機管理システム研究学会理事。三菱地所及びテレビ東京のリスク管理・コンプライアンス委員会社外委員。一般大学で非常勤講師を務めるほか、民間企業の研修会や各種セミナーなどで年間30件以上の講演を実施。

【著作】
『ベンチャーの経営変革の障害』(白桃書房 2019)、『東芝不正会計事件の研究』(白桃書房 2017)、『続・なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか』(日刊工業新聞社, 2017)、『なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか』(日刊工業新聞社, 2015)、『組織不祥事研究』(白桃書房 2012)など多数。その他に企業不祥事関連の研究論文を学術誌に多数掲載。コラム「不祥事の解剖学」(ビジネスロー・ジャーナル誌)、同「組織の失敗学」(捜査研究誌)を連載中。

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